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八ッ場ダムと吾妻線と圧縮記帳



以前の記事で、平成29年度の日商簿記検定から2級の出題範囲に加わった圧縮記帳の基本的な考え方と企業への影響についてみていきました。
この圧縮記帳ですが、早速、昨日(2017/6/11)実施された第146回の日商簿記2級試験で実際に第1問の仕訳問題で出題もされました。

今回は、実際の企業の有価証券報告書(有報)を見ながら、実在する資産の圧縮記帳を見ていきましょう。

見ていくのは、東日本旅客鉄道株式会社(以下、「JR東日本」)の有報です。
そして、圧縮記帳のきっかけとなるのが、ニュースで大きく取り上げられた「八ッ場ダム」です。

八ッ場ダムとと吾妻線

八ッ場ダムとは

皆さん、「八ッ場ダム」は読めますか?
―答えは「やんばだむ」です。

群馬県の北西部、利根川の支流である吾妻川(あがつまがわ)に建設が進められているダムで、2009年頃、当時政権を担っていた民主党のマニフェストにより建設が凍結されるなどの混乱がニュースに取り上げられ、全国的に有名になったことを覚えていらっしゃる方も多いかもしれません。
当初、2015年度の完成目標であったこの八ッ場ダムですが、現在は2020年度完成に向けて工事が進められているようです。

ただ、ダムそのものが圧縮記帳の対象という訳ではありません。

ダムの建設にあたっては、水没してしまう街や道路を移転する工事が並行して行われます。
この八ッ場ダムの場合、JR東日本の吾妻線という路線が水没区間を走っていたため、ダムの建設にあたって、吾妻線の一部区間を水没区域外に移設する工事(線路付け替え工事)が行われました。

この記事で見ていく圧縮記帳は、八ッ場ダム建設に伴って移設されることになったJR東日本の吾妻線(あがつません)です。

吾妻線とは

吾妻線とは、群馬県渋川市の渋川駅から、草津温泉の最寄り駅である長野原草津口駅を経由して大前駅までを結ぶJR東日本の路線です。

岩島駅と長野原草津口駅間に八ッ場ダム建設で水没してしまう区間があったため、水没区域外を経由する新しい線路に付け替えられる工事が進められ、2014年9月に新での営業をスタートしました。

工事費用は誰の負担?

吾妻線の線路や駅などは、付け替え前も付け替え後もJR東日本のものです。
従って、簿記的な視点で見ると、付け替え工事にかかった金額が新しい駅や線路やトンネルの取得原価となって、JR東日本の固定資産として計上されることになります。

ただ、この建設費用をJR東日本が負担する義理があるのでしょうか?

確かに、付け替え工事をしなければJR東日本はこの路線の営業ができなくなるのですが、そもそも八ッ場ダムを建設しようといったのはJR東日本ではないため、数百億円にものぼる建設費用をJR東日本が負担するのもおかしな話です。

実際には、国や流域自治体が負担するダム建設事業費から捻出されており、JR東日本は「工事負担金」として受け取っているのです。

実際の有報では、以下のように記されています。 平成26年4月から平成27年3月までの2年間で、吾妻線の線路付け替え工事にかかる工事負担金33,465百万円(334億6,500万円)受け入れており、それが損益計算書の「工事負担金等受入額」という特別利益に計上されています
※テキストの設例では、「国庫補助金受贈益」などの処理に相当しますね。

圧縮記帳の出番!

ただ、前回の圧縮記帳の記事やテキストの内容を思い出してみましょう。
「工事負担金等受入額」という特別利益を計上すると、利益が増えるので、支払うべき税金の額が増えてしまいます

JR東日本では、この吾妻線のケース以外にも、線路や駅の高架化などで市町村等から工事負担金を受け入れることがあるようで、そうした場合には圧縮記帳を行うことがあると、有報に書かれています。

どういった工事でいくら圧縮記帳を行ったのかも、以下のように有報にしっかりと書かれています。
よく見ると、吾妻線の線路付け替え工事を含め、すべての工事で工事負担金等受入額と同額を圧縮記帳していることが分かります。
また、この処理に関しても有報では次のように説明されています。(このように、財務諸表の補足情報として会計処理の方法などを説明する部分を注記事項といいます。
9 工事負担金等の圧縮記帳の会計処理

 鉄道事業における連続立体交差等の高架化工事や踏切拡張工事等を行うにあたり、地方公共団体等より工事費の一部として工事負担金等を受け入れております。
 これらの工事負担金等は、工事完成時に当該工事負担金等相当額を取得した固定資産の取得価額から直接減額しております。
 損益計算書においては、工事負担金等受入額を収用に伴う受入額も含めて「工事負担金等受入額」として特別利益に計上するとともに、固定資産の取得価額から直接減額した額を収用に伴う圧縮額も含めて「工事負担金等圧縮額」として特別損失に計上しております。(以下略)
以上のことから、吾妻線の線路付け替え工事を含め、すべての工事で工事負担金等受入額と同額を圧縮記帳していることが分かります。
また、JR東日本では「工事負担金等圧縮額」という特別損失の科目を使っていますが、テキスト等でいうところの「固定資産圧縮損」と同様の科目に相当することもお分かりいただけるのではないでしょうか。

意外と身近な圧縮記帳?

平成29年度から新たに日商簿記2級の範囲となった内容のうち、もしかしたら「圧縮記帳」が最もイメージしづらいという方もいらっしゃるのではないでしょうか?

ただ、意外と身近で馴染みやすい鉄道でも「圧縮記帳」されていることもあり、また、誰でもインターネットで閲覧できる有報で、その詳細を確認することも可能なケースがあります。

関東にお住まいの方で、もし列車に乗って草津温泉の方に行くことがあれば、長野原草津口駅の手前あたりで「この辺が圧縮記帳の区間か」と気にしてみてはいかがでしょうか。

日商2級商業簿記 新範囲攻略テキスト

  • 製造元:
    ネットスクール株式会社
  • 定価:
    1,944円(税込)
  • ISBN:
    978-4-7810-1528-6

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