お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

なぜあの内容が第149回(’18年6月)試験から日商簿記2級の範囲に加わるのか?


第149回日商簿記検定2級試験からの出題区分表変更について

平成28年度から平成30年度までの3年間にわたって段階的に実施されている日商簿記検定の出題区分表(試験範囲)改定ですが、平成30年6月に実施される第149回試験から適用される改定をもって、ようやく一段落となります。

受験生として「どうして…?」と思う気持ちは非常によく分かりますが、以前にも記事で書いた通り、これは近年のビジネススタイルや会計実務の動向を踏まえ、検定試験が企業実務に即した、より実践的な内容となるように実施される見直しですから、合格すれば自分をアピールする長所としてはより強力になるはずです。

多くの方が就転職でのアピールポイントや自己啓発のために学習されることと思いますので、ぜひその辺りの事情は理解して頂ければと思います(もちろん、「理解しろ」と言われても難しいところはあると思いますが…)。

さて、平成30年度試験(平成30年6月の第149回試験)からは、以下の内容が日商簿記2級(商業簿記)の出題区分表(試験範囲)に加わることになります。
  • 税効果会計
  • 製造業を営む会社の決算処理
  •  連結会計(アップストリームの場合の未実現損益の消去)

(今回の見直しは商業簿記の分野に限った話なので、今回も工業簿記への影響はございません。)

詳しい会計処理や問題演習については、平成30年度の試験に対応したテキストや問題集に譲るとして、そもそもどうして、このような内容が日商簿記2級の試験範囲に加わることとなったか、日本商工会議所が公開した文書とともに、確認していきましょう。

試験範囲に加わった理由が分かれば、学習の理解も進むかもしれませんし、学んだ知識の活かし方も分かるかもしれません。


各論点が2級の範囲に入った理由

税効果会計

日本商工会議所が公表した出題区分表改定の説明文章の中に、税効果会計について、以下のよう紹介されています。
税効果会計は、会計上の利益計算と税務上の所得計算との間で生じた一時的な差異を調整するための会計上の手続きであるが、従来はすべて1級の出題範囲とされてきた。
この文章からも明らかなとおり、これまで税効果会計は1級の出題範囲でした

ですが、上場している企業のほぼすべてが税効果会計を適用しており、会社によっては税効果会計によって生じる「繰延税金資産」や「繰延税金負債」、損益に与える影響がかなり大きなものになっています。

例えば、トヨタ自動車の最新の四半期報告書(2017年12月第3四半期)の連結貸借対照表を見ると、企業グループ全体が抱える繰延税金負債の額が約1兆2,900億円にもなっています。
従来の2級の内容だけを勉強した人がトヨタ自動車の財務諸表を見ても、「1兆円を超える謎の負債」としか認識できないのは、確かにあまり望ましい状況とは言えないのかもしれません。

また、経済ニュースなどでは、税効果会計が原因で一転して赤字転落するようなケースもしばしば報じられています。

こうした状況を踏まえて考えると、実際の企業会計を理解するうえで税効果会計の基礎は2級合格者にも持っておいて欲しいと考えるのが自然な流れと言えるでしょう。

なお、税効果会計すべてを2級の試験範囲としてしまうと学習の負担が膨大になることから、2級試験では以下の3つに限定して出題されることとなっています。
  1. 引当金の設定
  2. 減価償却の実施にあたり、損金算入限度額を超える金額を有税で行う場合
  3. その他有価証券を時価で評価替えした際に生じる差額の税効果


製造業を営む会社の決算処理

製造業を営む会社の決算処理が新たに2級の範囲となった趣旨として、日本商工会議所が公表した文章には以下のように書かれています。

従来、商業簿記と工業簿記はそれぞれ別個の問題として出題されてきた。しかしながら、製造業を営む企業を例にとれば棚卸資産の評価をはじめ、賞与引当金や製品保証引当金などの負債性引当金の計上など、商業簿記の範囲に係わる部分と工業簿記の範囲に係わる部分とが相互かつ同時に関連しており、本来は密接不可分の関係にある。しかしその一方で、工業簿記での出題は、期中における諸取引の記帳や初歩的な原価計算に関する問題が中心とならざるを得ない面があり、製造業を営む会社の総合的な決算に関連する問題を出題しにくいところがある。そこで、このような現実に適合させ、製造業特有の期末の決算整理事項や財務諸表作成を問う問題などを商業簿記のカテゴリーにおいて、総合問題として出題することによって、より実践的な能力を問うことも有用であると考えられる。

これまで工業簿記でも損益計算書などの財務諸表作成問題は何度も出題されていましたので、少々不思議に思われる方もいらっしゃったかもしれません。
ただ、改定の趣旨を読むと、どういった問題を想定しているのか詳しいことが見えてきます。

これまで工業簿記で財務諸表作成が問われる場合、だいたいのパターンとして「原価差異の処理」、「直接原価計算・CVP分析」といった内容が主な内容でした。
ただ、実際の製造業では、単なる工業簿記の問題では片付けられない処理がいくつもあります。

例えば、趣旨に書かれている「賞与引当金」を取り上げてみましょう。

賞与引当金当期の従業員の労働に対して翌期以降に賞与(ボーナス)が支払う予定がある場合に計上される引当金で、引当金を設定する際には「(借)賞与引当金繰入 XXX (貸) 賞与引当金 XXX」という仕訳が行われます。

このとき生じる借方の「賞与引当金繰入」は費用の勘定科目で、通常の商品売買業であれば給料と同じ販売費及び一般管理費に計上してあげれば良かったのですが、製造業では処理が異なります。

通常の賃金・給料についても、工場の従業員に対して支払われるものは製造原価(労務費)、本社や営業所の従業員に対して支払われるものは販売費及び一般管理費として区別していた訳ですから、賞与(ボーナス)も同じように分けてあげなければなりません。

もちろん賞与引当金繰入についても同じことが言え、繰入額のうち工場の従業員に関するものは製造原価(労務費)として製品の製造原価の計算に含め、本社や営業所の従業員に関するものは販売費及び一般管理費として区別することとなります。

こういった処理を工業簿記(第4問・第5問)ではなく、第3問の決算整理問題で出題できるようにしたのが今回の改定の趣旨と言えるでしょう。

なお、上記の処理は一見すると複雑ですが、製造業を営む会社の決算処理は、税理士試験の簿記論・財務諸表論ではコンスタントに出題されています。 いずれ税理士試験にも挑戦をお考えの方にとっては、早い段階から対策ができることになるため、日商簿記2級の段階では大変かと思いますが、税理士試験の学習に進んだ段階では、以前の日商簿記2級試験に合格した受験生に比べてアドバンテージを獲得できるかもしれません。


連結会計(アップストリームの場合の未実現損益の消去)

連結会計に関する内容の大半は平成29年度の試験(といっても、影響があまりに大きいことから6月試験では見送られましたが…)で出題範囲に加わりましたが、1つだけ、この「アップストリームの場合の未実現損益の消去」は平成30年度からの追加項目となりました。

アップストリーム」とは子会社から親会社に商品や固定資産などを販売(売却)することで、平成29年度の時点で2級の試験範囲に加わった「ダウンストリーム」(親会社から子会社への販売・売却)とは逆向きの取引となります。

では、どうして「アップストリーム」だけが2級の試験範囲となるのが1年遅れだったのかと言えば、こちらの方が計算や処理が相対的に見て複雑だからです。

この点は、改定の趣旨にも書かれています。
親会社が子会社に販売(売却)し、未実現利益が親会社側に生じているダウンストリームの場合は全額親会社の負担となることから学習者の負担は比較的軽いため、他の連結会計と同様に平成29年4月1日に適用するものの、子会社が親会社に販売(売却)し、未実現利益が子会社側に生じるアップストリームの場合には、親会社と非支配株主とが持株比率に応じて負担をさせる連結会計上の処理が必要となるため、相対的に学習者の負担は重い。それに鑑みて、アップストリームの場合は、適用時期を1年遅らせて平成30年4月1日からとした。

ただ、相対的な学習者の負担が書かれているものの、これから日商簿記2級を受験する方はダウンストリームもアップストリームも学ばなければならないため、そうした事情はほとんど関係ないと言えるでしょう。 ですが、学習上はまずダウンストリームの場合をしっかりと理解しなければアップストリームの場合の理解も難しいため、日商簿記2級の出題範囲に加わった順に学ぶのが最適と言えるのかもしれません。

ちなみに、現実の企業グループには、部品の製造を担う「製造子会社」を設立し、その子会社が製造した部品を親会社(の工場)が仕入れて最終製品を製造するケースが多々あります。

この場合、製造子会社から親会社(の工場)への部品の販売がアップストリームとなります

もちろん、日商簿記2級の試験では製造業の連結会計は出題されないものと思われますが、アップストリームの考え方も理解しておくと、こうした企業グループ内で行われている取引の実態を理解するときにも役に立つものと思われます。


最後に

今回もまた、日本商工会議所が公表した文章を引用しながらの記事となりましたが、試験の主催者がどのような意図や想いを持っているのかを知ることは、試験に対して正しい姿勢で臨む第一歩だと思います。

今回の記事で、第149回日商簿記2級試験から試験範囲に加わる内容がどうして加わることになったのか、理解したうえで学習を進めるきっかけになれば幸いです。

また、日商簿記2級に合格した方が進むと思われる日商簿記1級や税理士試験・公認会計士試験の受験生の方も、こうした動きは簡単で良いので把握しておいた方が良いのかもしれません。

いずれ、日商簿記2級の段階で税効果会計や連結会計、製造業を営む会社の決算処理を学んだ受験生がライバルになるかもしれない訳ですから、影響はゼロとは言えないでしょう。

お知らせ

ネットスクールの日商簿記2級対策WEB講座は、平成30年度の新範囲にももちろん対応しております。

試験範囲が広がったばかりでなく、よりしっかりとした理解が求められるようになった日商簿記2級試験対策に、ネットスクールのWEB講座をぜひ検討下さい。

また、平成28年度から30年度までに追加された内容だけを集めた『日商2級商業簿記 新範囲攻略テキスト』をご購入いただくと、桑原先生による新範囲の解説動画をご覧いただけます(DVDまたはWEB配信)。こちらのご利用もあわせてご検討下さい。

日商2級商業簿記 新範囲攻略テキスト

  • 製造元:
    ネットスクール株式会社
  • 定価:
    1,944円(税込)
  • ISBN:
    978-4-7810-1528-6

OTHER ENTRY この記事を読んだ人がよく読んでいる記事

SERVICE 自社サービス