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なぜあの内容が第146回(’17年6月)試験から日商簿記2級の範囲に加わるのか?


第146回日商簿記検定2級試験からの出題区分表変更について

多くの方がご存知の通り、日商簿記検定は平成28年度から平成30年度までの3年間にわたって、段階的に日商簿記検定の出題区分表(試験範囲)の改定を実施しています。

これは、近年のビジネススタイルや会計実務の動向を踏まえ、検定試験が企業実務に即した、より実践的な内容となるように実施される見直しです。
(今回の見直しは商業簿記の分野に限った話なので、工業簿記への影響はございません。)

そして、平成29年度試験(平成29年6月の第146回試験)からは、以下の内容が日商簿記2級(商業簿記)の出題区分表(試験範囲)に加わることとなりました。
  • リース取引
  • 外貨建取引
    • 外貨建の営業取引
    • 外貨建営業債権・仕入債務などの換算
    • 為替予約の振当処理(簡易なもの)
  • 圧縮記帳
  • 法人税等の課税所得の算定方法

※ 当初、「連結会計」の一部も平成29年6月試験から2級の出題区分表に加わることとなりましたが、学習上の影響を鑑みて、6月試験では出題されない(11月試験から出題範囲となる)旨が明言されていますので、今回の記事では触れないこととします。

詳しい会計処理や問題演習については、平成29年度の試験に対応したテキストや問題集に譲るとして、そもそもどうして、このような内容が日商簿記2級の試験範囲に加わることとなったのでしょうか。

どんなに分かりやすい解説を聞いたとしても、試験範囲が加わった理由が納得できないままでは、頭に入るものも入らないでしょう。

その辺りについて、日本商工会議所が公開した文書とともに、確認していきましょう。
【参考】改定等の説明「商工会議所簿記検定試験出題区分表の改定等について」(PDF)

各論点が2級の範囲に入った理由

リース会計

リース会計については、日本商工会議所が公表した出題区分表の改定趣旨として、以下のように書かれています。
リース取引は、従来すべて1級の範囲とされてきたが、リース取引を用いた設備投資は業種・規模を問わず広く一般化していることを背景に「中小企業の会計に関する基本要領」においても取り上げられている。そのため、借手側の処理でかつ、利子込み法または利子抜き法によった場合は定額法に限定し、問題文での指示にもとづいて受験者が容易に答えることができるよう配慮する代わりに、2級の段階から学習しておくのが適当であると判断し、移行することした。
改定の趣旨でも触れていますし、GAINS!内の『知ってる?「リース」と「レンタル」の違い』の記事の最後でも紹介した通り、リース取引は設備投資の一般的な方法の1つとなっています。

公益社団法人リース事業協会の調査によれば、2015年度のリース取扱高5兆393億円、民間企業の設備投資のうち、約7%がリースによるものだそうです。

上記の記事でも触れているリース取引のメリットを考えると、大企業を前提とした1級のみならず、2級でも基本的な知識を学んでおく必要があるというのは、日商側の判断といえるでしょう。

ただ、リース取引の会計処理を厳密に行おうとすると、かなり複雑な計算が必要となるため、簡便な会計処理に限定しつつ、問題文の指示に従えば容易に解答できる配慮はすることが、改定の趣旨の文章からうかがいしることができます。

外貨建取引

日本商工会議所が公表した出題区分表の改定の趣旨として、以下のように書かれています。

外貨建取引は、これまですべて1級の範囲としてきた。しかし、企業活動のグローバル化はますます進み、大企業のみならず、中小企業においても、海外からの原材料や商品の仕入、海外への生産拠点の移管、海外に製造拠点を移した発注先への製品の納入、さらには自らの海外市場への商・製品の販売が広く行われているところである。(中略)上記のように外貨建取引はもはや一部の大企業に限ったものではないことを背景に「中小企業の会計に関する基本要領」においても言及がなされていることを踏まえ、今回の見直しでは仕入れや売上げなど企業の営業活動に関連する取引に限って2級の出題範囲に移行することにした。

外貨建取引とは、文字通り外貨(日本円以外の外国通貨、例えばドル、ユーロ、ポンドなど)ベースの金額で行われる取引です。

海外から10,000ドルの商品を輸入したり(仕入れたり)、反対に海外へ日本製品を30,000ドルで輸出したり(販売したり)といったとき、他の取引が日本円で帳簿に記載されている中、これらドル建ての金額で表示された取引をどのように帳簿に記載するのかが問題となります。

また、上記のように海外との取引の結果、外国企業と外貨建て(例えばドル建て)の買掛金や売掛金が期末に残っているということも考えられます。この場合、日本円で表示する貸借対照表の中にどのように含めていくのかということも問題となります。
このような場合の会計処理を学ぶのが「外貨建取引」の内容となります。

日本商工会議所からの改定趣旨にもあるとおり、いまや外国企業との取引は大企業だけが行うものではありません。中小企業の中にも、外国に販路を広げたり、外国の優れた製品を日本に輸入したりといったことで伸びている中小企業も多数あります。

そのような状況の中、日商簿記1級まで進まなければ外貨建取引の基礎すら触れないというこれまでの日商簿記の出題区分に対して、抜本的に見直したものと思われます。

ただ、上記改定趣旨の引用からは省略している部分にも書かれているのですが、外貨建取引も本来多岐にわたり、外国に支店を設けたり、外国の有価証券を購入したり、外国企業に対してM&Aを仕掛けるといった取引もあり、このような外貨建て取引の会計処理は高度になります。
そういった会計処理まで2級の範囲とすることはなく、これらの内容は引き続き1級の範囲のままとなります。

また、外国と掛取引を行う場合、為替レートが変動することによるリスクに常にさらされてしまいます。売掛金や買掛金を決済する日の為替レートが大幅に変動した場合、思わぬ損失が生じてしまう可能性もあります。
そこで、実務的には「為替予約」といって、決済する際に使用する為替レートを前もって決めてしまうことがしばしば行われます。

これに関しても、複雑なものは1級の内容のままとしつつ、簡易なものは2級の出題範囲に加えることで、実務と2級試験の難易度のバランスをとっているようです。

 圧縮記帳と法人税等の課税所得の算定方法

圧縮記帳は、法人税法上の課税の繰延べを行うための方法であるが、実務に広く普及していることから2級以上の範囲に追加した。
「圧縮記帳」とは、国からの補助を受けて固定資産を取得した際に、法人税法上の優遇措置を受けるための会計処理です。改定趣旨にもあるとおり、実務で普及していることから2級の出題範囲に追加されたようです。

ただ、これは簿記・会計の分野単独の話ではなく、法人税法上の規定が深くかかわってくる内容であり、理解の前提として法人税法の知識がどうしても必要となってきます。

これまでの日商簿記2級試験はあくまでも「簿記・会計」の試験であるとして、法人税法上の規定の知識が必要となる内容を出題してきませんでした。
そのため、法人税法等の会計処理に関してはこれまでも出題されましたが、その金額の算定は省略されたり、簡便的に「税引前当期純利益の○○%」という出題に限定されたりしていました。

ですが、本来の法人税法上の規定では、税引前当期純利益ではなく「課税所得」という金額に税率を掛けて税額を求めることになっており、実務では、税引前当期純利益と課税所得の金額にズレが生じることが普通となっています。

この税引前当期純利益と課税所得の違いがダイレクトに関係する『税効果会計』も平成30年度の試験から日商簿記2級の範囲に加わるのですが、その前段階として1年前から「課税所得」の計算はできるようになってもらおうというのが、平成29年度改定の趣旨となっています。
税効果会計が2級以上での出題となったことと整合性を保つためには、課税所得の算定方法すなわち、税引前当期純利益と課税所得が異なることをある程度理解しておくことは不可欠である。そのため「区分表」に明記したものであるが、適用時期については、税効果会計が下記のように平成30年4月に適用されるに先立ち、まず課税所得算に関する基礎的な概念を定着させる必要があるので、テキスト・問題集などの教材が整備されるのを待って1年先送りした平成29年4月1日であることに留意すること。
「課税所得の算定方法」は「圧縮記帳」とも関連する内容であるため、「課税所得の算定方法」が範囲に加わるタイミングに合わせて、「圧縮記帳」もセットで2級の範囲に追加されたというのが、今回の改定の経緯となっています。

最後に

今回もまた、日本商工会議所が公表した文章を引用しながらの記事となりましたが、試験の主催者がどのような意図や想いを持っているのかを知ることは、試験に対して正しい姿勢で臨む第一歩だと思います。

受験生の方々にとっては、負担が大きくなる今回の改定ですが、その背景にはビジネスシーンを取り巻く昨今の環境の変化ということもあります。

これを無視して出題区分をそのままにしておくと、だんだんと検定試験の内容が現実から離れていき、検定試験、ひいては合格者の方々の価値も怪しくなってしまい、誰も得しない未来が訪れるおそれも考えられます。

反対に、新しくなった日商簿記2級に合格することができれば、これまで以上にビジネスシーンで役に立つ知識を身に付けたことが証明できるはずですから、もっと強い武器にもなることでしょう。

今回の記事で、第146回日商簿記2級試験から試験範囲に加わる内容がどうして加わることになったのか、理解したうえで学習を進めるきっかけになれば幸いです。

お知らせ

桑原先生による、第146回(平成29年6月)試験対策日商簿記2級WEB講座の無料説明会を、2017年3月2日(木) 20:30から配信致します。
ネットスクールWEB講座の新範囲への対応等についてもご案内予定なので、お時間が合う方はぜひご覧下さい。


また、平成28年度から30年度までに追加された内容だけを集めた『日商2級商業簿記 新範囲攻略テキスト』をご購入いただくと、桑原先生による新範囲の解説動画をご覧いただけます(DVDまたはWEB配信)。こちらのご利用もあわせてご検討下さい。

日商2級商業簿記 新範囲攻略テキスト

  • 製造元:
    ネットスクール株式会社
  • 定価:
    1,944円(税込)
  • ISBN:
    978-4-7810-1528-6

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