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簿記の世界に登場する2つの「減損」



紛らわしい(?)多義語の世界

世の中には、同じ文字列で複数の意味を持つ“多義語”が存在します。

例えば、「手」という言葉には『身体の一部』としての「手」の意味のほか、「その手があったか!」のように『方法』としての意味も持っています。
また、「首」という言葉にも『身体の一部』としての「首」の意味のほか、簿記でおなじみの「期首」という言葉や「船首」「首相」のように『最初』や『さき』といった意味も持っています。

このほか、分野によって意味が変わる言葉も結構あります。

「キャッシュ」と「キャッシュ」

簿記に関連するところでいえば、代表的なのは「キャッシュ」ではないでしょうか。
簿記検定に登場する「キャッシュ・フロー計算書」でも分かるとおり、簿記・会計の分野で「キャッシュ(cash)」といえば『現金や預金などの支払手段となる資金』を想像するでしょう(一般的にもこちらを想像するのではないでしょうか)。

ただ、コンピュータやIT関係の分野で「キャッシュ」といえば、『一時的に情報を記憶しておく』領域を意味する「キャッシュ(cache)」を想像する方の方が圧倒的に多いようです。

会話であれば、両者はアクセントが異なるためすぐに区別できますが、カタカナで「キャッシュ」だけ書かれた場合には、前後関係で判断するしかありません。

「のれん」と「のれん」

同じく簿記に関連する用語の中では、「のれん」もこの例に含まれるでしょう。

普通の人にとって(簿記を学んでいる方も日常生活では)、「のれん」といえば飲食店などのお店の軒先にかかっているあの「のれん」を想像するはずです。
この「のれん」ですが、昔はお店のブランド力や信用にも直結するものなので、長年勤めた奉公人が独立する際に店の屋号や信用、仕入先や得意先を分け与えることを「のれん分け」と呼ぶようになりました。
(今でも、ラーメン屋で修業した人が独立する際に「のれん分け」を許されるといったケースがあるようです)

このように、日本語が持つ「のれん=信用やブランド力」から派生して、簿記・会計の世界では、M&Aの際に支払われる対価のうち信用やブランド力に対する部分(M&A先の企業が持っている純資産の時価を超えて支払われた金額)も「のれん」(または「のれん代」)と呼ばれるようになりました。
のれんなんて存在しない外国の企業をM&Aによって買収しても、会計の世界で計上されるのは「のれん」となります。

簿記の世界で登場する2つの「減損」

簿記検定の学習を進めていくと、2つの「減損」に遭遇します。
全く異なるというと言い過ぎかもしれませんが、同じ簿記検定の学習の中で、異なる2つの意味合いを持つ言葉はおそらく「減損」くらいではないでしょうか。

本当にモノがなくなる工業簿記・原価計算の「減損」

工業簿記や原価計算で登場する「減損」は、物質的にモノが減ってなくなります

工場などで作られる製品の原価を計算して帳簿に記録していく工業簿記・原価計算の分野は、製造業を想定しています。
製造業で作られるモノの中には、加工作業中に蒸発したり、生産ラインから漏れたりこぼれたりして目減りしてしまうことがあります。
このような目減りが生じること、またはその目減り分のことを「減損」といいます。

例えば、ペンキなどの塗料を作っている工場を考えてみましょう。
10リットルの原料を投入しても、途中でガス化したり製造設備にくっついたりする影響で完成品である塗料は9リットルしか産出されないとします。
すると、目減りした減損1リットル分にかかった原料代などのコストをどのように処理するのかが問題となります。

こちらは、日商簿記検定では2級以上、全経簿記能力検定では1級以上の工業簿記・原価計算の分野で登場する「減損」となります。

帳簿上の金額を減らす「減損」

もう1つの「減損」は、目に見えるモノが減る訳ではなく帳簿上の金額を減らす「減損」です。

企業が保有する有形固定資産・無形固定資産は、土地と建設仮勘定を除き、減価償却を行って帳簿価額を減らしていきます。
教科書的には「使用や時の経過に伴って価値が減少する」過程を反映させる手続きとして減価償却の説明がなされますが、あくまでも取得した金額(取得価額)をベースに、毎年決まったルールに則って規則的に償却していくだけなので、以下のような状況が起こり得ます。

例えば、話をシンプルにして、10億円でホテルを建てたとしましょう。
耐用年数を10年、定額法で減価償却をしていくと、帳簿価額は毎年9億円→8億円→…と減っていくはずです。
このホテル、有名な観光地やテーマパークの近くにあり、週末を中心に多くの観光客が泊まってくれることを期待して建てて、しばらくはその狙い通りに収益を上げていました。

しかしある時、テーマパークが閉園してしまい、宿泊客が一気に減少してしまう事態が起きたとしましょう。
この時点でのホテルの帳簿価額が5億円だったとすると、貸借対照表には5億円の資産が計上されます。ですが、どれだけ頑張っても、この先は総額で3億円の収益しか期待できないとしたら、「このホテルに5億円もの資産価値があるように貸借対照表に計上していいのか?」という疑念が生じてしまいます。
何も知らずに貸借対照表を見た人は、この先3億円しか収益が得られないものであることを知らずに「5億円の資産を持っている」と勘違いしてしまうおそれがあります。

このような状態が生じた際に、帳簿上の資産の額を適切な金額まで減らす処理が、もう1つの「減損」(「減損処理」や「減損会計」ともいいます)です。
こちらの「減損」は、帳簿上の金額は減るものの、あくまでも帳簿上の金額だけしか減りませんので、実在するモノがなくなる訳ではないのが特徴です。

なお、この「減損」は基本的には建物や備品などの有形固定資産を対象としていますが、この他に「のれん」などの無形固定資産も対象となっています。

最近、経済ニュースなどで話題になっている「のれんの減損」は、こちらの「減損」のことを意味しています。

M&Aの際に、買収先のブランド力やノウハウを期待して多額の対価を支払った結果、多額の「のれん」を資産計上します。 しかし、期待していたほど収益を上げる効果が無かった場合、大して価値のない「のれん」という資産が計上されてしまわないように、大きすぎる「のれん」の金額を適切な金額まで(もしくは0円まで)減らしてしまいます。

その際、仕訳上で貸方に「のれん」を計上して資産を減らす相手勘定として、のれんの「減損損失」という費用を計上します。
減らす金額が大きいほど、計上される費用の金額も大きくなり、結果として多額の赤字の原因にもなってしまうことから、ニュースとしても注目されることになってしまうようです。

こちらの「減損」は、日商簿記検定では1級、全経簿記能力検定では1級・上級での学習内容となっています。

最後に

ちなみに、国語辞典で調べてみると「へること。へらすこと。」と書かれているため、どちらもその意味には概ね沿っているものにはなりますが、登場する科目も具体的に想定される計算なども大きく異なります。

そのため、講師や先生に「減損が分かりません」と質問・相談をしても、「どっちの減損?」となる可能性があるため、注意が必要しましょう。

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